フリーペーパー うぇるかむ

「うぇるかむ」は、東日本大震災により、山形県へ多数の方が避難されたことをきっかけに、2011年8月に創刊されました。詳しくはこちらをご覧ください
郷土文化の継承 おえ草履づくり

今回は鶴岡市大鳥地区(旧朝日村)に住み、「おえ草履」作りをされている井戸川美奈子さんにお話しを伺いました。

井戸川さんは南相馬市出身で、東日本大震災を機に2011年6月に鶴岡市内に避難。ある日、市内の荒物屋で見つけた「おえ草履」に魅了され自分でも作ってみたいと、2013年頃におえ草履作りに参加。その後、師匠となる渡部志けさんと出会い、足繁く通い様々な手ほどきを受けました。

渡部志けさんは当時92歳。師匠から深く教わるうちに、編み方だけでなく材料探しからやってみたいと思い、質の良い「おえ」が自生する大鳥地区に移住を決めました。

「おえ」とは地方での呼び名で、カヤツリグサ科の一種です。山間部の池沼などに生え、蓆や畳表に使われるほか、草履に使われるのは珍しいとのこと。夏の土用の時期に刈り取り、天日干しをして雪の時期に草履作りをします。手仕事なのでワンシーズンに製作できるのは10足ほど。

履き心地が良く、藁の草履よりも丈夫で室内履きに丁度良いとのこと。

大鳥地区は雪深い山間部にあり、大鳥池の幻の魚タキタロウ伝説などでも知られています。人口が少なく高齢化が進み、井戸川さんは貴重な若手として、地域の方々とも交流を深めています。

井戸川さんは大鳥地区への移住を振り返り「震災で故郷を離れ、根無し草だった。アイデンティティーも揺らいだ。土地に根差した暮らしは憧れだった。師匠の志けさんに出会えて、自分の人生をもう一度作り直すような気持ちに変わった。2022年に逝去され、その時は心の支えを失ったが、師匠から受け継いだ伝統をこれからも守っていきたい」と語ってくれました。

「おえ」の収穫を終えた渡辺志けさん(左)と井戸川さん(右)

販売について

おえ草履は受注販売です。おえの収穫や草履作りを綴った写真集「breath」を2024年6月に発行しました。ご希望の方はメールにてお問い合せください。

井戸川 美奈子

E-mail:aonoi_minakoidogawa@icloud.com